2016年芥川賞「コンビニ人間」を読みました。

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「コンビニ人間」はピースの又吉がテレビで紹介していたのを見てからずっと読みたかった小説です。とてもおもしろくて3時間で読めてしまいました。

最初の5ページで主人公は「最高のコンビニ店員」だと思った。

「僕の最寄りのコンビニに居て欲しい店員さんだなぁ」と感心するような気の利く店員さんが主人公です。

客の細かい仕草や視線を自動的に読み取って、身体は反射的に動く。耳と目は客の小さな動きや意思をキャッチする大切なセンサーになる。必要以上に観察して不快にさせてしまわないよう細心の注意を払いながら、キャッチした情報に従って素早く手を動かす。

これだけ高い意識でコンビニのアルバイトをしている人を僕は知りません。コンビニのアルバイトの人は不愛想だったり手際が悪い人が多いイメージです。ただの流れ作業でレジ対応をされて、気遣いをあまりされたことがないように思います。

たまに「ストローを刺しておきましょうか?」「温かいものと冷たいもの袋を分けましょうか?」仕事関係の買い物をした時に「領収書は必要ですか?」と気を効かせてくれる店員さんがいて嬉しい時がありますが、それだけ気を効かせて接客をしてくれるのはだいたい社員さんみたいな人です。

コンビニ店員としては完璧な主人公はとても変わった感性をもっています。

死んだ鳥は食べるのが合理的

小さい時に公園で遊んでいて死んでしまっている小鳥を見つけて「これ食べよう。お父さん、焼き鳥好きだから、今日、これを焼いて食べよう」と普通に言うような感性を持って生まれた主人公。死んだ鳥を食べずに埋めるなんて合理的じゃないと思ってしまうんです。確かに効率的ですけど、世間的には驚かれてしまいますよね。

コンビニは完璧なマニュアルをくれる

人とは違う感性を持って産まれた主人公は「どう動いたら世間的に間違わないか」という事を考えて生きている。

「店の売上を上げてお客様の役に立つ」という目的があり、完璧なマニュアルがある「コンビニ店員」という仕事は、主人公にとってはまさに天職であり、コンビニで18年間働き、36歳になってもアルバイトとしてずっとコンビニで働き続けている。まさにコンビニ人間ですね。

今の自分を形成しているのはほとんど自分のそばにいる人たち。

「世間から異物」と見られないために、周りにいる同世代が使っている言葉や、身に着けている服や靴を真似して生きている主人公は、自分のそばにいる人が変わる度に変化していきます。

これは主人公だけじゃなくてみんなそうですよね。職場が変わって一緒に働く人間が変われば言葉遣いが自然に変わります。でも主人公は「自分が世間から異物」と見られないために意識的に変化していきます。 

白羽さん「この世界は、縄文時代と変わってない」

主人公が働いているコンビニにアルバイトとして入って来た白羽さん。彼もビックリするような感性をもっています。

ムラのためにならない人間は削除されていく。狩りをしない男に、子供を産まない女。現代社会だ、個人主義だといいながら、ムラに所属しようとしない人間は、干渉され、無理強いされ、最終的にはムラから追放される

「この世界は異物を認めない。僕はずっとそれに苦しんできた」 という白羽さんは特殊でちょっと怖い考えをもった人間に見えます。でも結構正しいことも言っているなぁと感じました。現代社会では「稼がない男」は雑魚扱いされますし、「結婚していない女性」や「結婚しても子供を産んでいない女性」は生きにくい世の中です。

異物の2人を通して考えさせられる小説でした。

主人公の恵子と白羽さんは異物として物語の中にいます。でも僕はこの2人の周りにいる普通の人達にイラっとしました。

主人公は「コンビニだけが自分が世の中の歯車になれる場所だ」とコンビニのために一生懸命に働いているだけの女性です。「なぜそんな女性がまわりの普通な人から批判されて矯正されてしまうんだろう」「変な世の中だなぁ」と思ってしまいます。犯罪も起こしていないし人に迷惑もかけていないんですから。

僕も結婚していて子供がいないので、友達や両親から「子供はまだ?」と会う度に聞かれます。この質問は世間的に普通なんですけど、質問された側からすると「うるさいなぁ。ほっといてよ」と思いますし、「結婚したら子供をつくるのが普通」という社会なんだと改めて感じます。

生きたいように生きたいけど「世間的におかしいから」という理由で「自然に矯正されて生きているなぁ」と考えさせられる小説でした。読んでいない方は是非読んでみて下さい。